国連の勧告ふまえヘイトスピーチに規制を

水平時評 府連書記長 赤井隆史

インターネット上に流布される全国各地の被差別部落の地名。朝鮮学校の前で「殺してやるから出て来いよ。ゴキブリども!」と叫ぶ差別街宣。街頭で差別言動を繰り返すヘイト・スピーチ。

特定の集団に向けられる露骨で粗野な差別言動が日増しに増幅し、人権と民主主義そのものを危機に陥れる傾向が強まってきている。

一連の差別扇動に対する法的な規制や一定の処分等が必要であることは、国連等の勧告を見ても明らかであるが、「表現の自由」とのかねあいから、強制的に排除したり、削除させることができないなど、有効な措置がとれない状況にある。

こうした誹謗中傷、露骨な差別発言、人格を否定する「下品かつ低俗」な行為は、「表現の自由によって保護されるべき範囲」を超えており、また、「表現の自由の濫用であって、法的保護に値しない」ことは、明々白々である。

法務省は、人権擁護法案や人権侵害救済法の国会審議において、こうした差別助長行為について、以下のように説明している。

①人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対する不当な差別的取扱いを助長・誘発することを目的として②当該不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする情報を③文書の頒布・掲示等の方法により公然と摘示すること。

このような一連の差別助長行為について、最近、法務省は、「識別情報の摘示」であると解説している。

「識別情報の摘示」とは、不特定多数の者に対する不当な差別的取扱いを生じさせるおそれが大きい行為と認められており、また、「識別情報の摘示」に当たる行為は,①目的②情報内容③行為のそれぞれの面で限定されているもので、表現活動の自由を不当に制約したり、表現活動を萎縮させたりするものではないとしている。

これらの点においては、行政という立場で大阪府が前向きに回答したとしても、以下のような内容に止まる。

「同和地区名をネット上に書き込むことは、差別を助長する恐れがあることから許されない行為である」。しかし、「現行法上は、表現の自由とのかねあいから、強制的に削除させることができないなど、有効な対策がとれない状況にあるため、国に対し、有効な法規制を講じるよう要望している」。

7月に国連自由権規約委員会において、日本政府報告書審査を受けて、総括所見が公表された。どれもが日本政府に厳しい内容が突きつけられているが、ヘイト・スピーチへの勧告は特に厳しいものとなった。

…朝鮮・韓国人、中国人および部落民などのマイノリティグループの構成員への憎悪および差別を扇動している広範囲に及ぶ人種主義的言説と、これら行為に対する刑法および民法上の保護の不十分さに懸念を表明する
…委員会はまた、頻繁に行われている許可を受けた極端論者のデモ、外国人の生徒・学生を含むマイノリティに対する嫌がらせと暴力、並びに民間の施設や建物での“ジャパニーズ・オンリー(日本人以外お断り)”などの看板・貼り紙の公けの表示について懸念を表明
…締約国は、差別、敵意あるいは暴力の扇動となる人種的優越あるいは憎悪を唱える宣伝のすべてを禁止し、そのような宣伝を広めるためのデモを禁止するべきである
…締約国はまた、人種主義に対する意識高揚活動のために十分な資源を割り当て、裁判官、検事および警察官が、ヘイトクライムや人種主義的動機による犯罪を見つける力をつける訓練を確実に受けるよう取り組みを強化するべきである
…締約国はまた、人種主義者の攻撃を防止し、加害者とされる者が徹底的に捜査され、起訴され、有罪判決を受けた場合は適切な制裁をもって処罰されることを保証するためにすべての必要な措置をとるべきである

ヘイトスピーチそのものに規制を求めた厳しい勧告と言える。表現の自由を保障しつつ、効果的な規制を行うというのは、至難の業だが、日本政府も重い腰を上げざるを得ない国際情勢ではないだろうか。わたしたちもまた、国際的なチャンスを最大限に活用して国内世論を巻き起こす必要があるだろう。