部落の高齢化、若い人たちの部落離れは、いまや全国的な共通の問題として挙げ
コラム | 2024年11月16日
ニュース | 2015年1月1日
昨年12月14日の衆議院選挙は与党自民党の勝利に終わった。大阪府連が重点的に支援した辻元清美候補だけが民主党の中で大阪府内小選挙区で唯一勝利を勝ち取った。
この厳しい結果を冷静に受け止め、平和と人権の前進、部落差別をはじめあらゆる差別撤廃のために新たなスタートを切らねばならない。落胆している時間はない。いかなる厳しい状況にあっても、現実を厳正に分析し、現実を克服する多様な部落解放運動の前進が求められている。
かつて年頭の挨拶で申し上げた2009年1月16日に発生した「ハドソン川の奇跡」に再度学ぶときである。「ハドソン川の悪夢」になってもおかしくなかった危機的状況を「奇跡」にしたのは、冷徹なまでの正確な現実把握と多面的な知識、それに基づく的確な決断と高度な操縦技術の賜物であった。ジェットエンジン停止から四分弱で地上に落下するジェット旅客機。その機長であったチェズレイ・サレンバーガーは、限られた時間を最大限有効に使い奇跡を成し遂げた。そして乗員乗客155名の命を救った。彼はジェット機の飛行とは無関係と思われるハドソン川を活用して奇跡を現実のものとした。
私たちに与えられた時間は四分ではない。もっと多くの時間が与えられている。その時間を有効に使い正確な現状把握を行う必要がある。それが部落解放運動再構築の出発点である。
今年は部落解放運動や平和運動にとって名実ともに極めて重要な年である。
1945年8月15日に第2世界大戦が日本の敗北に終わって70年である。1965年8月11日にその後の同和行政に圧倒的な影響を与えた同和対策審議会答申(以下「答申」という)が出された。それから50年、半世紀の年月が過ぎた。さらに「部落地名総鑑」差別事件が発覚して40周年を迎える。その「地名総鑑」と部落差別身元調査を規制するために制定された「部落差別調査等規制等条例」が大阪府議会で成立して30周年に当たる。
今一度、「答申」の精神をふまえた同和行政・人権行政の再構築が求められている。この数年、大阪府政・市政においては、同和行政・人権行政が大きく後退した。大阪市内で部落差別撤廃行政を担い、差別撤廃・人権確立に大きく貢献し、多くの市民に幅広く利用されてきた市民交流センター廃止の動きと大阪人権博物館への支援打ち切りは、その際たるものである。
「答申」は、読者の皆さんもご存じのように、その「前文」で「いうまでもなく同和問題は人類普遍の原理である人間の自由と平等に関する問題であり、日本国憲法によって保障された基本的人権にかかわる課題である。したがって、審議会はこれを未解決に放置することは断じて許されないことであり、その早急な解決こそ国の責務であり、同時に国民的課題である」と明確に述べ、「問題の解決は焦眉の急を要するものであり、いたずらに日を重ねることは許されない状態にある」と明記し、「政府においては、本答申の精神を尊重し、有効適切な施策を実施して、問題を抜本的に解決し、恥ずべき社会悪を払拭して、あるべからざる差別の長き歴史の終始符が一日もすみやかに実現されるよう万全の処置をとられることを要望し期待するものである」と述べている。
しかし「答申」で指摘された具体的課題は実現されていない。「恥ずべき社会悪」は払拭されていない。「答申」は法ではない。だからこそ同和対策事業特別措置法のように時限はない。その指摘された精神と課題は今も生き続けている。「答申」が時限を迎えるのは、部落差別が完全撤廃されたときである。そのことを部落解放運動も行政機関も関係する機関も忘れてはならない。「答申」は半世紀を経た今日においても無効になることはない。今年は半世紀間の「成果と課題」を明確にする年である。
私たちが部落解放運動の礎にすることができる過去の成果は無数にある。時代の流れを変えるためには、ハドソン川をも活用した機長の姿勢に学ぶ必要がある。私たちには憲法や国際人権諸条約をはじめ多くの法制度やシステムなど部落解放運動を推進するための礎が数多くある。それだけではない。これまでの部落解放運動の成果が今後の部落解放運動の基盤として存在している。
部落解放運動は、1922年の全国水平社創立以来、部落差別をはじめとするあらゆる差別撤廃に取り組んできた。日本国内の市民団体でこれだけの歴史を有し、戦前戦後を通じて差別撤廃運動を展開してきた団体はほとんどない。その間に国内外に与えた積極的な影響は計り知れない。政治、経済、司法、行政、教育をはじめあらゆる分野に多大な影響を与えた。それらの影響は今日の社会システムに組み込まれ人権確立に大きく貢献している。それも部落差別撤廃という分野だけではない。多くの反差別・人権の分野を対象に大きな足跡を残してきた。
こうした歴史をふまえ、情報発信力を強化し、縮小から拡大へ、守りから攻めへの年にしなければならない。
以上のことを申し上げ、年頭のご挨拶とさせていただきたい。
部落解放同盟大阪府連合会
執行委員長 北口 末広