分権・自治の時代に逆行する「都構想」に反対を

水平時評 府連書記長 赤井隆史

大阪市をなくし、現在の24区を5つ特別区に再編するかどうかを決める住民投票が5月17日に行われることが確定した。

もし「賛成」が「反対」を1票でも上回れば、大阪市という政令指定都市がなくなってしまう。この一大事をたった数ヵ月間の議論で決めてしまって本当に良いのか?皆さんの冷静な判断を期待するところである。

橋下大阪市長は、「車を買う時に設計図を見て買う人はいない」と言って、大阪都構想の詳細な設計図はこれからつくると説明している。車の購入と統治機構を根底からかえるという大改革を同レベルで説明すると言うこと自体に問題があるが、少なくとも新車の購入は、何回も試乗が可能であり、問題が発生した車であれば、リコールすることも可能である。

しかし、今回の住民投票は可決されると、やっぱり前の方が良かったと大阪市に戻すことは不可能であり、戻ることができないというのが、今回の住民投票であることを再度、訴えておきたい。

堺市は2006年に美原町と合併。念願の政令市となり、独自の政策が展開されてきている。幾つか例を挙げれば、「精神科救急医療の整備」「小中高等学校の教員採用」「子ども相談所の設置」「中小企業の振興」「国道・府道の一元管理」「宝くじで独自財源(30億円)」などが新規事業として実施されている。

政令市になると、「『区』が設置できる」「『道路財源』が持てる」「国からの『交付税』が増える」「『宝くじ』が発行できる」など、独自の権限が強くなり、財源も大きくなる。また、国も市町村合併を推進しており、人口が多い市は認定基準をクリアして「政令市」になろうとするのが、一般的と言われている。
にもかかわらず、わざわざ政令市を返上して、大阪市廃止と5つの特別区への分割という道を選ぼうとしている。

橋下大阪市長や松井大阪府知事は、口を揃えて「二重行政が無駄だ」とし、大阪府と大阪市を合体させ、非効率な運営を一本化することによって、市民サービスは向上すると繰り返し訴えている。しかし、時代のトレンドはまったく真逆であり、“都”への権力集中ではなく、地方分権・地方主権である。府県の役割は、高度医療や大学・産業政策、経済政策などに限定し、市町村への権限と財源の委譲を進める地方分権・地方主権だとする方向が昨今の風潮である。

二重行政を解消したいのであれば、「市」に権限と財源をもっと委譲することを優先させるべきであり、さらには、「府市調整会議(堺市も含む)」の設置や「総合区制度」などを使った地方自治のあり方を追求するべきである。身近な区長が区の財産管理をやったり、都市計画の権限を市町村に委ねるべきで、なにも大阪市を無くしてまで進めるべきではないということだ。

国も地方分権を進めようとしている現代にあって、大阪だけが「府」への権力集中を進めようと逆行しているのが、橋下大阪市長・松井大阪府知事が進めるいわゆる“都構想”である。

どれほどの経済的効果があり、市民サービスが向上するのか。大阪市を解体して5つの特別区にすることでどれほどのメリットがあるのか、正直、橋下さんにもわからないだろう。

こんな冒険で、大阪市が無くなるという現実だけをわたしたちに押しつけてくるという手法は、政治があまりにも独立性と主体性を喪失しており、政治の無能を露呈したものだと厳しく指摘したい。しかも、いったん廃止されれば、うまくいかなくても元の大阪市に戻ることはできないという現実を、大阪市民や府民は、理解しているとは言えない。説明不足も甚だしいのが実状だ。

市民は決して観客ではない。自治の主役である。大阪市の存在を消してはいけないのである。あらためて、決戦の時である。5月17日は“反対”と書こう。