国勢調査を活用した実態把握から見えるもの

水平時評 府連書記長 赤井隆史

同和行政を進めていくにあたって、被差別部落の実態把握は避けて通れない問題である。わたしたちは、行政との話し合いの席では、つねに被差別部落の実態把握の必要性を訴えてきたところである。

大阪府や大阪市をはじめとする自治体は、実態把握の必要性は認識しながらも財政難を理由に実態調査に慎重な態度をとり続けてきたが、国勢調査を活用した実態把握にメドをつけ、このたび報告書がまとまった。決して十分な調査とは言えないが、今日の被差別部落の実態をおぼろげながらも映し出す貴重なデータを幾つか紹介したい。

まず、わたしの目にとまったのは、現在の被差別部落に移り住んできた転入者の状況だ。大阪府内の被差別部落の居住期間が、1年未満のパーセンテージが5・3%、1年から5年未満が13・9%、5年〜10年未満12・8%、10年〜20年未満15・3%となっており、じつに47・3%を占めるという結果となっている。つまり、地域における転入者数が20年間の間に半数近く入れ替わっていることになる。

移動してきた人たちが、他の被差別部落からその地へやって来たのかも知れない。または、まったくの一般地域からの流入者であるかも知れない。それは追跡調査の必要性を提起しているが、今回の調査結果では、そこまでは不明となっている。

また、被差別部落に生まれ、そのまま地元で生活していると回答されたのは、8・6%となっており、出生時から生まれた部落で生活している人は、わずか1割に満たないという数字である。

ついで、教育の状況に目をやれば、「小学校、もしくは中学校までの卒業者」の割合を居住期間でクロス集計すれば、以下のような結果が導き出されている。
「小学校・中学校」卒
・現在地の居住期間 1年未満 28・2% (府全域 12・5%)
1〜5年未満 24・3% (府全域 11・5%)
5〜10年未満 25・6% (府全域 11・8%)
10〜20年未満 25・4% (府全域 11・9%)

大阪府全域を対象とした数字より、どの年数でも2倍以上の格差が生じている。
つまり、学歴が、そのまま就業実態に比例すると考えれば、社会的な困難層の出現は、被差別部落に移り住んだ時期が問題ではなく、総じて厳しい実態にあることが見て取れる結果となっている。

なぜ、被差別部落は、社会的な課題を持つ人たちを招き入れる磁場を持っているのか。「心身の障害・不安」や「貧困」、「社会的排除や摩擦」、「社会的孤立や孤独」などと言った社会的な課題が、重複するように、複合化した課題として、なぜ、被差別部落にあらわれるのかを説き放さなければならない問題である。

被差別部落というフィルターに吸い寄せられるようにやってくる人たちのほとんどが社会的に困難を抱えている層である。被差別部落の街に多く建設された公営住宅という性格から都市の困難層が集住するということも否定できない問題であろう。

社会的排除や貧困、孤立などが特定の地域にさらに集中する深刻な状況は、公営住宅政策をとったことも一因であるとは理解するが、被差別部落にこうした社会的課題を抱えた人々がいつの時代も引き寄せられるようにやってくる磁場とは何なのか。多いに議論し、検討しなければならない急務な課題である。

生活困難を抱えた人間を社会的に排除しないで、社会的に包み込もうという社会的包摂型の市民運動が被差別部落にこそ急務なようである。低学力により、学習機会が不足するなどして、不安定な仕事にしか就けない。病気などで仕事が続けられない。住むところも不安など、現代の被差別部落にあらわれている生活困難は多様で深刻化している。そのとき、その人を地域社会から切り離されないように、社会的に包摂する解放同盟が必要なときである。