部落の高齢化、若い人たちの部落離れは、いまや全国的な共通の問題として挙げ
コラム | 2024年11月16日
コラム | 2017年6月14日
地図検索サイト「Googleマップ」上で、大阪市内の私鉄のひとつの駅名が何者かによって書き換えられ、本来の駅名に「部落」という文字が加えられていたという事件が6月2日にわかった。大阪府連にも報告があり、即座に関係の私鉄側に連絡、連絡を受けた私鉄側は、「部落差別を助長する不適切な書き込みである」と判断し、Googleの法人に削除を要請。翌日の3日午後には検索しても表示されない状態となった。24時間以上放置されたことにより、どの程度拡散したのかなど、被害状況をどのように把握するかなど課題が残ったわけではあるが、関係各位の努力もあり、それなりに迅速に対応され削除まで持ち込めたことは一定評価できる結果であったと言えるものである。
では、この駅名を「部落」と書き換えた“差別を助長する不適切な部落差別の表現”というネット上の人権侵害について、まずは関係方面に対して削除を求めるということが第一義とはなっているが、それで事の本質を突いているのかという課題について問題提起したいと思う。
ひとつは、差別表現に書き換えた何者かという犯人の特定という問題をもっと優先させることは出来ないのかという問題意識だ。「差別表現は拡散される」「ネット上にますます差別が広まっていく」という被害拡大に悲鳴を上げるのではあれば、誰が犯人であるのか、悪質な書き込みをしたのは誰なのか、それこそ犯人捜しを急ぐべきである。
ヘイトスピーチの実態把握などの調査結果から、ネット上のヘイトスピーチは、不特定多数と言うよりは、一部の限られた人間が大量に書き込みそれが広がっているという傾向にあることがわかっている。部落差別を拡散させる“何者(主犯格)”かも、それほど多く存在しているわけではなく、犯人を特定することを通じて、不正を最小限度に押さえ込むということに努力すべきだと主張したい。
大阪市で制定された「ヘイトスピートへの対処条例」施行後、急激にヘイトスピーチの件数が減少したことを見れば、犯人特定という作業は、差別書き込みの封じ込めにもっとも効果あるということを訴えたい。
ふたつめには、この差別書き込みによる被害者は誰かという問題である。駅名が書き換えられたと言うことは、駅の利用客が被害者なのか。それとも管轄する私鉄会社か。やはり「部落」と誹謗・中傷されたと判断するなら被差別当事者である部落出身者全体を指しているのかという問題である。
昨年末に制定された「部落差別解消推進法」には、第一条として、以下のような定義がある。「この法律は、現在もなお部落差別が存在するとともに、情報化の進展に伴って部落差別に関する状況の変化が生じていることを踏まえ、全ての国民に基本的人権の享有を保障する日本国憲法の理念にのっとり、部落差別は許されないものであるとの認識の下にこれを解消することが重要な課題であることに鑑み、〜」。
つまり、部落差別解消という課題は、なにも被害者を被差別部落出身者と定義するのではなく、「部落差別を解消する必要性に対する国民一人一人の理解を深めるよう努める(第二条の基本理念から)」と明記されていることを見ても、部落差別は社会全体の悪であり、解消のためには全ての国民一人一人が理解を深め、努力するように求められている。
このような視点から見てもネット上の“部落”という差別表記の被害者は、すべての市民であり、こうした行為は許されないという環境を醸成することが第一義の課題であることが見てとれる。
みっつめには、部落差別を解消する必要性にすべての市民が理解を示すという法文の解釈をこの事件からどのように捉えるかという問題である。残念ながら部落差別を引き起こすひとの中には、当事者である被差別部落の出身者や住民がいるという事実である。それは、障害者差別も他のマイノリティの問題にも精通した課題であり、誰もが被害者にも加害者にもなりうるのが差別問題だと理解すべきであると訴えたい。
だからこそ「部落差別解消推進法」は、部落差別の解消に関する施策は全ての国民を対象になされるべきであると強調しているのであり、部落差別の解消のためには、被差別部落をなくすことでもなければ、被差別部落出身者に対する差別だけを対象としている法律ではないということだ。
なくすべきは、部落差別であり、葬るべき対象も部落差別である。その解消のためには、被害者はすべての市民であるという理解を促進させることであり、当該の私鉄側も行政も駅利用者も、そしてわたしたち当事者もさらには、市民もこの度の過ぎた悪ふざけに抗議の声を上げ、あらゆる側面からこの事件に対する真相究明に取り組むべきであると訴える。