Vol.255 「差別されない権利」認める判決 次は立法府の闘いだ

性的マイノリティ当事者の人権より、多数派であるマジョリティの人権に配慮したLGBT法の成立や、トランスジェンダーであることを公表し活動している仲岡しゅん弁護士に対して、「男のクセに女のフリをしているオカマ野郎」「メッタ刺しにして殺害する」などと書いた殺害予告のメッセージが送りつけられる事件など、最近の人権状況がすこぶる悪化の一途をたどるような出来事が多い中にあって、ここに来てようやく朗報が舞い込んだ。

6月28日東京高裁は、鳥取ループ・示現舎に対して、全国の被差別部落の地名をまとめた本の出版などは差別されない権利の侵害だとして、示現舎に対する出版の差し止めと地裁判決よりも出版禁止の範囲を広げ、賠償額も増額するという判決がそれだ。

判決文は、また、個人の尊重を保障した憲法13条や法の下の平等を定めた憲法14条の趣旨に鑑み、「不当な差別を受けることなく、人間としての尊厳を保ちつつ平穏な生活を送ることができる人格的な利益を有するのであって、これは法的に保護された利益であるというべきである」とまで言及している。

続いて、「①上記のとおり、部落差別は我が国の歴史的過程で形成された身分差別であり、明治4年の太政官布告により制度上の身分差別はなくなったものの、今日においてもなお本件地域の出身等である事を理由とする心理面における偏見、差別意識が解消されていないことから認められる当該問題の根深さ、②本件地域の出身等であるという理不尽、不合理な理由に基づく不当な扱い(差別)がこれを受けた者のその後の人生に与える影響の甚大さ、そして、③インターネットの普及により、誰もが情報の発信者及び受信者になることができ、情報の流通範囲は広がったものの、その便宜の反面において、誤った情報、断片的な情報、興味本位な情報も見受けられるようになったことから、これに接することによって差別意識が植え付けられ増長するおそれがあり、現にインターネット上における識別情報の摘示を中心とする部落差別の事案は増加傾向にあること等に鑑みると、本件地域の出身等であること及びこれを推知させる情報が公表され、一般に広く流通することは、一定の者にとっては、実際に不当な扱いを受けるに至らなくても、これに対する不安感を抱き、ときにそのおそれに怯えるなどして日常生活を送ることが余儀なくされ、これにより平穏な生活を侵害されることになるのであって、これを受忍すべき理由はない以上、本件地域の出身等であること及びこれを推知させる情報の公表も、上記の人格的な利益を侵害するものである」と“差別されない権利”を明確に認めた画期的な内容である。

また、判決は、「本件地域の出身等を理由に不当な扱い(差別)を受ける」との文言が何度も登場してきており、差別を禁止している法律が現段階で存在していない現状では、( )付きの“差別”と指摘せざるを得ないギリギリの司法判断が優先されている。差別禁止の法律が存在していない状況を考慮しても“不当な扱い(差別)”とまで判決文の要所要所に指摘されていることから、いよいよ司法判断から立法事実の積み上げという人権侵害の救済と規制という所にまで踏み込んだ法律の議論へと発展させていかなければならないことは言うまでもない。

“不当な扱い(差別)”に対して、東京高裁は、「本件地域情報の公表はプライバシー権又は名誉権が侵害されることがあるとしても、これは上記の人格的な利益が侵害される場合と重複するものと認められ、〜(中略)〜これらの権利利益は上記の人格的な利益において考慮するのが相当である」と結ばれている。人格的利益が侵害されているという事実をみたとき、被差別部落の出身者であるというアウティングや同和地区名の公表などは、当然のことながら平穏な生活を送ることを妨げる行為だと指摘できる。 つまりは、宮部を中心とする鳥取ループの今回の行為は、まぎれもなく被差別部落の集団に対する“不当な扱い(差別)”であり、それは、無論、歴然たる部落差別である。

全国の部落の地域名を一覧にした本の販売や発行、ネット上での掲載がシャットアウトされ、それ自体も被差別部落出身と推測させる地名などの公表はこの利益を「侵害する」と断罪したこととなった。 しかし、被害者が特定できない一部の県においては、掲載の差し止めにまでは至らなかった。司法に対しては、個人が訴えなければ成立しない裁判上のルールがある以上、これが限界なのかも知れない。
被差別部落という属性に対する差別を禁止したり、被害者救済のシステムにまで構築させるためには、やはり、包括的な人権の法制度が求められて然りである。立法府での闘いのゴングが鳴った。