Vol.272 「したたかに生き延びる」ことの意味 山口勝己さんの著書から考える

良き先輩であり、そしてまた維新政治との闘いを牽引してきた同志として一時代をともに歩んできた自治労大阪府本部前委員長の山口勝己さんが、『「維新」政治と民主主義』という本を出版された。

「分断による統治から信頼でつなぐ自治へ」とのサブタイトルで、決して対維新との対決姿勢だけを前面に出したものではなく、分断を煽る政治を越えて、ボトムアップの自治へ、わたしたちはどのような方向をめざすべきなのかを示唆した興味を引く本書である。

豊富な経験と、解説の深さと明快さは、さすが山口さんであり、大阪におけるこの15年間程度の政治の流れがつぶさに理解できる書であり、ともにこの時代を一緒に歩ませてもらった者のひとりとして、誇らしく思うものである。

住民投票や大阪府知事選挙、さらには、大阪市長選挙、統一自治体選挙などを詳細に分析され、同時に労働組合への介入や部落解放運動への攻撃など、時代の変遷を俯瞰して解説され、維新政治のつぎに現れてくるであろう政治の潮流についても示唆に富むものである。

その書に表されている項に“過渡的政治現象として維新を見る”との項目で、大阪人権博物館(リバティおおさか)が登場する。大阪府、大阪市の補助金削減からは廃止へ、さらには大阪市との土地の明け渡しと賃料相当損害金の支払いを巡っての裁判などの経過も詳細に解説されており、また、昨今の大阪公立大学へのリバティが所蔵する約3万点の人権資料を保存管理展示などを公立大学に寄贈するという方向性が紹介されている。

リバティサイドが長年の冬の時代に検討してきた大阪公立大学への3万点所蔵の人権資料の寄贈という方向性について、山口さんは、「これらの実践が教えてくれているのは、事業や活動が不当な批判や攻撃にさらされたとき、もちろん胸を張ってその不当性を主張することは大切だが、同時にこの批判や攻撃を受け流し、したたかに生き延びる現実的な道を見つけて歩んでいくことの大切さだ。」とギリギリでくだした苦渋の決断に一定の評価を示され、続けて「柳の枝が強風にさらされながらも決して折れないようなしなやかさをもった『勁さ(つよさ)』ではないだろうか。」と、この間の薄氷を踏む思いで進めてきた関係者とのやりとりを「しなやかな回復力(レジリエンス)を力に再生の取り組みを継続している」と高く評価してもらったことは、取り組んできたひとりとしてありがたい言葉である。

どのような形であれ、リバティおおさかの精神が継承され、公的な大学に貴重な人権資料が府民・市民の共有財産として位置付くことの意義は計り知れないと思っている。

最後に山口さんは、こんな言葉を残している。「底の浅い答えに飛びつくことを自戒しつつ、あえて結論を提出するとしたら『生きのびる』ことと『つながる』ことと言いたい。意見や利害関係の対立と分断が深刻化し、容易に妥協点を見いだしがたい状況が深まれば深まるほど、『決められる政治』への渇望が強まる。」と分析し、続けて「こうした政治手法を駆使する政治勢力の担い手」は、いまや世界的潮流になりかねない危険性を現代社会ははらんでいると警鐘を鳴らしている。

そうした風当たりの強さになんとしても“生きのびろ”と山口さんは呼びかけている。それぞれの活動分野でしたたかに生きのびることであり、活動の担い手がつながることだと力説している。「論破」する前に、ひとの話をよく聞くこと。よく理解すること。そして「信頼」に支えられた関係を構築すること。その「信頼」の輪を広げていくこと。それを自分たちの手で創り上げていくこと。これこそが「自治」である。と結ばれている。

同時にこれからの大阪の政治に対して、ひとつは、政党の党運営が市民に対しつねに開かれていることと、大阪の有権者の想いをひとつに束ねられるようポジティブな政策課題を提案するような仕組みが必要ではないかと訴えておられる。山口さんの意見に大賛成である。それともうひとつ、この15年の闘いで明確となった、時代を読みとり政策化する時間との闘いをわたしは強調したい。良い政策もタイムリーでなければ支持されないことも長い闘いから学んだ教訓だと思う。