部落の高齢化、若い人たちの部落離れは、いまや全国的な共通の問題として挙げ
コラム | 2024年11月16日
コラム | 2016年1月18日
全国ではじめてヘイトスピーチ(差別的憎悪表現)の抑止をまとめた条例案が、1月15日の大阪市の市議会本会議で可決、成立した。
大阪市の審査会がヘイトスピーチと判断すれば、発言した団体名などを公表する内容となっている。ヘイトスピーチを禁止する「人種差別撤廃施策推進法案」の具体的な審議が国会で進んでいない状況下で、在日コリアンらが多く暮らす大阪で、根絶に向けた積極的姿勢が示されたことの意義は大きく、これを弾みに国における法律の制定につなげていきたい。
当初の条例案は、橋下前市長が提案したものであり、今回の条例は、その“橋下色”をできる限り薄めるため、修正したり、付帯決議に盛り込むことによって、「関係者の様々な意見を柔軟に取り入れた」内容に変更され、議会を通過したというものである。吉村新市長が修正に応じ、何とか成立にまでこぎ着けたということでもある。どういった表現がヘイトスピーチにあたるのかを事後認定するだけでは抑止力が弱いといったことや、公共施設の貸し出し制限も検討の対象にすべきではなかったかなど、条例案はパーフェクトなものではないが、大阪市において、ヘイトスピーチが社会悪であり、許し難い表現であると指摘した意義は大きく、しかも全国初であるという点は、画期的である。
橋下前市長のもとで作成された条例案には、ヘイトスピーチの被害者が提訴する場合に訴訟費用を貸与する制度が盛り込まれていたが、「こうした個人的な費用を税金から支出するのはどうか」といった疑問が出された。また、何がヘイトスピーチにあたるのかを審議する審査会の委員選任問題についても、議会の同意抜きに市長が任命するのはいかがなものかと、“物言い”がついた。
こうした修正要求に対して吉村市長は、訴訟費用貸付制度を削除し、委員選任に議会同意を必要とする規定などを盛り込み、かなり踏み込んだ修正案を提示し、各会派への同意を求めるということとなった。
少ない人数ではあるが、条例成立のキャスティングボードを担ったみらい会派の森山よしひさ議員(浪速区選出)の活躍もあり、次の議会へ継続審議になるのではないかといった議会内攻防に見事、決着をつけ、成立されたことは特筆すべき事柄でもある。
今回の条例案は、ヘイトスピーチという差別的憎悪表現を特定の人種と民族に限っており、当然ながら部落差別は対象外となる。つまり、鶴橋での在日コリアンに対するヘイトスピーチは、審査会の対象となるが、奈良の水平社博物館前で行われたヘイトスピーチは審査の対象にすらならない事を意味している。
社会で差し迫って憎悪な表現が繰り返し行われている“特定の人種と民族”に対するものからまずは、抑止していこうというものであり、一歩前進と今回の条例を捉えることが重要であり、次は、社会悪と規定したヘイトスピーチを根絶させるための社会環境の醸成に取り組んでいくことが不可欠な課題だといえる。
被害者に対する訴訟費用貸付という唯一効力を有する条例部分が削除され、いわば「宣言条例」ともいえる内容となってしまったことについては、残念ではあるが、自治体が対策を法制化したことには大きな意義がある。日本においては、「一定の集団」に対する憎悪な発言に対しては、その表現を取り締まる法律が無く、表現の自由が大きな壁となって、暴力的な煽動に対して効果ある規制や禁止させるといったことすらできないのが現状だ。
日本の法制度は、できる限り具体的な個人に引きつけて、その人物が被害者として「名誉毀損」や「侮辱」であると主張しない限り、加害者を取り締まれない。「部落民を殺してしまえ」「朝鮮人を抹殺せよ」といった暴力の煽動を呼びかける表現においても、個別の人物が被害を受けているという事実が証明されない限り、その表現を直接取り締まる法律はない。
そうした日本の現状に対して、「ヘイトスピーチが個人の尊厳を害し差別の意識を生じさせるおそれがあることに鑑み、ヘイトスピーチに対処するため本市がとる措置等に関し必要な事項を定めることにより、市民等の人権を擁護するとともにヘイトスピーチの抑止をはかることを目的とする。」と明記された「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」の制定は意義深い。あらためて法整備の必要性を訴える。