Vol.113 多様性の象徴とすべき「二重国籍」問題

国会閉会中審査が開催され、安倍首相に対する加計問題疑惑や自衛隊PKOをめぐる日報の隠蔽問題などが焦点となっているが、民進党蓮舫代表の「二重国籍」に対する批判に応えるためと戸籍謄本の一部などの情報を公開したケースについて、やはり若干のコメントを寄せておく必要があると思う。
東京都の都議選の敗因が蓮舫代表の「二重国籍」問題にあるなどと考えられない主張を党内で繰り返す人たちがいるという現実が、民進党が有権者から支持されない最大の要因であることをまずは指摘しておきたい。「お父さんが台湾の人だから党首はおかしい」という発想が民進党内にある限りにおいて党勢拡大など皆無だ。蓮舫代表が日本国籍者であることは明らかであり、その時点で台湾籍をきちんと放棄したのかどうかが説明不足であったようだ。しかし、国交関係もなく、言語等の壁もある台湾の法制度に従って台湾籍を離脱する手続を取ることは実態として難しく、だからこそ法務省も重国籍者の日本国籍選択後の原国籍離脱についてはあくまで「努力義務」にとどめているというのが実態だ。

民進党内でことさらに蓮舫代表の戸籍の開示を求めている人たちの意図は、一体どこにあるのか。もっともらしくコンプライアンス云々と叫んではいるものの、台湾にルーツを持つという個人の属性を否定し、公党の代表である限りは、“身も心も日本人”でなければならないといういわば一種の「踏み絵」を強いる行為であり、きわめて差別主義的な排外主義の考え方だと言わざるを得ない。
しかも蓮舫代表は、台湾ルーツであることを隠して国会議員を務めてきたのではなく、公言してきたのであり、きわめて差別的な誹謗中傷である。
「二重国籍」は決して負の象徴などではなく、民進党における「多様性の象徴」だと堂々と宣言すべき問題であり、多民族共生という視点からも2020年にオリンピック・パラリンピックを東京で開催しようという国の国際感覚からも優れて二十一世紀型の進取の気性に富んだ方向に進むべきことを強く訴えるものである。

戸籍の開示を求めるという行為は、外国にルーツを持つすべての人たちやあるいは疑われた者だけに課せられなければならない行為なのか。蓮舫代表は、たしかに「わたしで最後にしてほしい」と訴え、自ら「苦渋の決断」と本人は判断されたのかも知れない。しかし、今後さまざまなマイノリティに「苦渋」を強いることになりかねないということに思いを馳せたのであろうか。
戸籍にはきわめてセンシティブな個人情報が記載されている。結婚の際に本籍地記載の戸籍などを交換する“釣書”という風習がいまも引き継がれる地域が存在し、現住所や戸籍を理由として、結婚・就職における差別行為がいまなお根強く存在している事実がある。だからこそ、戸籍の情報は厳重に管理され、本人以外での閲覧が厳しく管理されているというのが現実である。
戸籍を個人情報の最たるものとして厳重に管理するようになったのは、日本社会における被差別部落や在日外国人にかかわる差別撤廃運動によるところが大きいことは周知の事実である。

蓮舫代表の今回の開示行為は、結果として、外国にルーツをもつ人びとに対して戸籍開示によって、「身も心も日本人」であることを宣言することを強いることにつながりかねない行為であるということ。さらには、一方では、党内のこうした差別扇動行為を容認してしまったという責任を痛感して欲しいと心から願う。
徐々にではあるが、日本国籍をもつ人の人種的、民族的な多様性は確実に進行している。これら日本国籍者であるダブルやミックスといったルーツの人びとを、日本はいつまで特別扱いするのであろうか。
わたしの住む西成では、在日コリアンを筆頭にさまざまな国にルーツを持つ人たちが生活をしているのが実態だ。しかし、これからは、ことあるたびに日本国籍を持っていることの証明を迫られ、「踏み絵」を踏まされるという圧力を感じながら生きていくようなことにはなってはならない。
そのような排外主義と強制同化主義ともいえる今回の開示行為は、説明責任や公党党首としての資質の問題とは次元の違う問題であると指摘しておきたい。
期待するからこそ今回の行為は残念至極である。ネトウヨに支えられている自民党政権とは根本的に違うはずだ。多様性を尊重し、多民族との共生社会を推進するための政党こそが、“民進党”だと主張したい。