Vol.121 フードバンクの“コンビニ”がはじまる

「パントリー」とは、食品を蓄えておく小部屋のことを指す。全国のフードバンク活動の先駆けである東京のセカンドハーベスト・ジャパンが“ハーベストパントリー”と称して食品を配布する活動が展開されている。経済的困窮により、十分な食事をとれない状況にある個人・家族に対してパントリー(小部屋)に来てもらって好きな食品を無料で持ち帰ってもらおうという活動である。

“フードバンクによるコンビニ”ともいうべき活動であり、品数豊富な東京のフードバンクだからこその取り組みともいえる。このセーフティパントリーともいうべき活動を大阪市内の西成と平野でスタートさせようという企画が動き始めている。

西成は、「西成くらしセーフティストアNLSS」(ふーどばんくOSAKA西成支店)として検討されている。運営主体は、にしなり隣保館スマイルゆ〜とあいで、
同所で実施予定だ。セーフティストアNLSSの利用者には“グリーンカード”という会員証が手渡され、これを持っている人は誰でも利用できるという仕組みだ。ただし確保される食品に限界があることから、いまのところ来年4月から月2回を予定にストアをオープンしようという計画だ。

この“グリーンカード”を発行する認定の仕組みがセーフティストアNLSSの真骨頂となる。(社福)ヒューマンライツ福祉協会はもとより、生活困窮者自立支援窓口、社会福祉協議会、西成自彊館や子ども食堂も保育所や学校、地域包括支援センターや障害者会館、さらには部落解放同盟西成支部など各支援機関からの情報提供を受け、個別面談によりグリーンカードを発行するという手順のようだ。生活全般の状況を聞き取り、伴走型による寄り添い支援で自立に向けた支援を展開しようという試みである。貧困の連鎖を断ち切ることをめざした「西成くらし安心ストア」ともいうべき取り組みが来年からスタートすることになる。

平野では、もと平野青少年会館にふーどばんくOSAKAの市内サテライトの事務所が位置付いており、活動を展開している。振興町会をはじめとする区内の各種団体からも注目されており、地元の子ども食堂の取り組みスタートとあわせて、フードバンクの活動に期待が寄せられている。

このもと平野青少年会館で、“ひらのふーどばんくコンビニ”を展開したいと思っている。もと平野青少年会館の近隣の状況は、非常にしっかりとした振興町会が要となって、生活困窮者への支援やこどもの育成支援などに対する問題意識が比較的高く、さまざまな活動を展開したいとの意欲もきわめて高いものがあるが、なかなか実現するところにまで至っていないのが現状である。

これを区役所との連携のもとで取り組むことで、もと青少年会館というプラットホームが確立できたことで、居場所の確保と情報発信の拠点への期待が高まってきている。

一定の条件を満たせば、無料で食品を提供するという“ふーどばんくパントリー”では誰を対象者とするかという認定基準が重要なことは言うまでもない。「自立の妨げにならないか」「行き過ぎた保護政策に陥らないのか」「惰眠(だみん)を生みだすことにならないのか」との心配の声も寄せられていることは事実のようだ。

しかし、「すべての人が、経済レベルに関係なく、明日の食事について心配すること無く、いつでも必要なときに栄養のある食べ物を得ることができる社会」をわたしたちはめざしている。そのためにも「すべての人に、食べ物を」を実現するという手段のひとつが、フードバンク活動だ。

日本では約7人に1人が月に10万円以下で生活しており、また近年子どもの貧困も約16%と、深刻な社会問題になってきているとの数字が発表されている。そうした人たちが身の回りで生活しているという現実に目を背けるのではなく、誰でもいつでも食べ物が必要なときに、身近で食べ物を手に入れることができる環境をつくりあげる必要があると考えている。

まさに“食によるベーシックインカム”ともいうべき生活環境を地域でつくりあげる努力が不可欠であり、西成と平野ではじまろうとしている「ふーどばんくパントリー」をなんとか成功に導きたい。

食のセーフティネットを地域で確立することにより、「なんとかお腹を満たせることができる」という状態をつくりあげることが、ふーどばんくOSAKAに課せられた任務でもある。