Vol.142 ネットに部落の地名を晒すことの意味

インターネット-いわゆる電子空間上に巻き散らかされている差別的言動が度々話題となっている。ヘイトスピーチ解消法や部落差別解消推進法という差別撤廃を呼びかける法律が成立しているにもかかわらず、後を絶たない差別言動のオンパレードだ。その代表格ともいえる差別扇動行為を行っているのが、鳥取ループ・示現舎であろう。

とくに「部落探訪」というコーナーは、全国各地の被差別部落を訪れ、“まちの様子”や“特徴”などを紹介し、あたかも単なる町の紹介ページのような体裁をとりながら、そこが被差別部落であるという事実を拡散・助長させており差別行為に他ならない。全国の被差別部落100ヵ所近くにまで広がっているこの「部落探訪」が、ネット上から削除されないという現実に対して、全国各地で地元法務局への申し入れが相次いでいるようだが、法的整備は進んでおらずこの差別拡散・助長行為を停止させることが出来ていないのが現状だ。

こうした差別行為に対して、インターネットからの削除と損害賠償を求める裁判が、2016年4月に提訴されてからすでに2年、7回の口頭弁論がひらかれている。弁護団は、部落差別の実態を裁判の中で立証するため原告陳述書のとりまとめを行っており、わたしもそのひとりとして差別体験を報告した。

要点だけを紹介する。
高校に進学し、わたしは大阪府の○○市にある私立の高校へ進学した。高校2年生の時に毎日のようにいっしょに過ごした友人、男子生徒がいた。彼は、大阪の○○に住んでおり、いわゆる同和地区として指定を受けなかった地域の被差別部落出身者であり、家は大阪の被差別部落に多い部落産業を営んでいた。その彼が、高校3年生に進級する間際だったと記憶しているが、好きな同じ年齢の彼女と結婚するといいだし、当然、若すぎるという女性側の母親(たしか母子家庭だったとの記憶が・・・?)の反対があったが、高校の卒業を条件に卒業後すぐに結婚するという内諾を得たと喜んでいたことを覚えているが、たぶん、女性側サイドからの彼に対する身元調査が行われ、被差別部落の出身であるという事を理由にして婚約が破棄されるという出来事が発覚した。

彼は、憔悴しきり学校への登校もしないようになり、わたしたち友人の説得もあったが、結局は途中で高校を退学するということとなった。西成という規模の大きい被差別部落に住んでいたわたしは、露骨なまでの部落差別・結婚差別を目のあたりにしたことを高校生ながら鮮明に覚えており、差別はこんなふうにあらわれるという現実を目にした。

その友人が生まれ育ったところに部落解放運動は存在していなかった。本人も自分が被差別部落の出身者であるという自覚も薄い。つまり、身元が暴かれ、それが結婚の理由として反対されるなど青天の霹靂であったことは想像に難くない。

つまり、被差別部落の出身者であるという自覚と差別の現実は必ずしも一致するものではなく、本人の自覚に関係なく、出自が暴かれるケースが部落問題特有の課題なのだ。見た目差別でもない。民族の問題でもない。性差でもない。被差別部落という地域で生まれ育ったか、本籍地や住民票が被差別部落という地域に少しでも関係していた人たちが、被差別部落出身者と見なされ差別の対象にさらされるというきわめてわかりにくい差別なのだ。

「『ここが、被差別部落ですよ』と取り上げることそのものに差別意識もなければ、差別を拡大助長させる意識など、まったくないです」と鳥取ループ・示現舎は証言するのであろう。

しかし、現実は、その地域を後にした人たちの多くは、そこで生まれ育ったことを隠し、ひっそりと生活していることを忘れてはならない。また、子どもの結婚の際に父親である自分の出自が暴かれ、娘の結婚に差しつかえる可能性におびえている人も少なくないのだ。

これほど、ネットやSNSだと言われる時代は、誰もが探偵まがいのマネをしネット空間を捜せば、それなりの情報を得ることは可能な時代である。名前や住所、そのひとの交友関係など、それなりの情報をキャッチすれば、現地への聞き込みや問い合わせなどによって、そのひとの出自を暴いてしまうことになる危険性をつねに持っているのが、ネットなのだ。

出自を暴く可能性のある行為の是非が問われているのが、この裁判の争点であることを強調しておきたい。