Vol.175 ネット上の人権侵害に対する大阪府のとりくみに期待する

昨年12月20日に大阪府議会において「インターネット上の人権侵害を解消するための法整備を求める意見書」が全会派一致で採択された。
府連としてこの間、知事との政策懇談会、副知事との交渉などを重ね、インターネット上における差別が氾濫している事実を提起し、実効性ある対応策を求めてきた結果、「大阪府差別解消に関する有識者会議」が設置され、3回の会合が開催され大阪府としての一定の考え方が示される事となった。
こうした理事者側の動きに対して、大阪府議会としても後押しする形で、“意見書”が提案され全会派一致で採択された意義は大きいものがあり、議会、行政そろい踏みの形で、国に対して申し入れて行こうという気運が高まっていることに大いに期待しているところである。
 
まず基本的な考え方としては4つあると理解した。
その1は、法でもって差別的なネット情報を削除するという考え方。その2は、法務省の責任において実施する削除要請という考え方。その3は、差別的な有害情報を事前にシャットアウトするサイトブロッキングという考え方。その4として、ネット事業者自身が差別情報に対して毅然として削除するための努力義務を法令において明記するという4つの基本ベースが存在する。
もっといえば、法律・責任・規制・義務という4つの観点からネット上の人権侵害情報に対抗しようという提案である。差別的情報に対して封じ込めるという点からも早期の実現が求められており、府連としても全面的にバックアップしていくことは当然であり、人権政策の実行委員会などへも呼びかけ国における法的整備の実現に努力していく必要がある。

第1に国による措置命令(削除命令)の権限をもった法的整備については、本来は国から独立した人権委員会(仮称)的な機関が設置されることがのぞましいが、当面は、表現の自由の保障について十分に考慮しつつ、明らかに誰が見ても問題のある差別情報に限り、国が定める基準に該当する行為であるということを出来る限り独立性を持った第三者機関が判断した上で、国による削除命令を認めるなど、インターネット上の差別事象について、強制力のある法的措置制度を確立することを求めている。

第2は、プロバイダ等の訴訟リスクを回避させ、国(法務省)がその責任を引き受けるべきものと法令で明記させるということ。これは、プロバイダも情報発信者もどちらも民間であることから、他人の権利が不当に侵害されているとプロバイダが判断し、削除した場合の訴訟リスクを法務省が引き取るという考え方である。ただし、当然のことながら差別を助長・誘発する目的があり、なおかつ違法性があるという大前提を根拠として、国の削除要請に基づきプロバイダ等が削除した場合に限るというきわめて限定的な対応と言える。

第3は、サイトブロッキングとは、「通信の秘密」「表現の自由」を担保しつつ、また、インターネット上の表現全般に対する「検閲」につながらない仕組みを確立した上で、差別情報を事前に規制することが可能かという未知への挑戦ともいえる難しい問題だ。海賊版サイトや児童ポルノサイトのようにある意味わかりやすいサイトを事前にシャットアウトすることは比較的容易に決定できるものではあるが、人権侵害情報や差別情報は、その判断が難しくアクセス制限が恣意的に利用されることがないよう、適切に限定し判断できるシステムの構築が同時に求められていることも指摘しておきたい。

第4として、インターネット上におけるヘイトスピーチや、特定の地域を同和地区である、又はあったと指摘する行為は、明確に法令で禁止された行為とまでは言わないが、重大な人権侵害であり、児童ポルノや出会い系サイトにおける児童の権利保護と、重要性において違いがないという重大な社会問題であるという共通認識が必要だ。その上で、確信的に人権侵害情報を発信する発信者(削除要請に応じない)からの賠償請求についての裁判所の判断を後押しする意味でも、事業者に対して一定の努力義務を法令において明記することを提案している。
 
以上4点が、インターネット上の人権侵害を解消するための法整備を求める根拠となっている。また、そのいずれもが民主政治の根幹をなす「表現の自由」「知る権利」という大原則を冒すことのない限定的に絞り込んだ人権政策としての提言である。検討する価値は十二分にあると思う。