Vol.235 社会矛盾が真っ先に現れる部落 地域共生社会への挑戦は待ったなし

「2025年問題」「2040年問題」「2054年問題」と題した本が書店に平積みされているケースが目立ってきている。

そのひとつ「2025年問題」とは、団塊の世代が全て75歳以上になることを言い、それ以降、医療費・介護費が急激に増大するひとつの分岐点の年のことだ。推計では、2025年の全人口に占める75歳以上の割合が、17.8%になるという試算でもある。

次いで、「2040年問題」とは、2025年から2040年というわずか15年の間に、20歳から64歳までの人口が約1000万人減少するといわれており、生産年齢人口が急激に減少し、深刻な労働力不足に直面するというデーターの事である。おまけに75歳以上人口は2054年まで増加し続けるという試算から「2054年問題」と言われており、将来人口推計から試算されたデーターは、全人口に占める75歳以上の割合が25%に達するというもので、つまりは、国民4人のうち1人が75歳以上の高齢者となり、人類の歴史上、日本は「超々高齢化社会」という未知の領域に突入することを示唆している。

とくに今後の社会保障はどのような姿になっていくのか。現役世代の20歳から64歳の人口がガタ減りの時代を迎え、積極的な移民労働者を受け入れるという方向に舵を切るのか。いまの自民党岸田政権では難しい舵取りでもあり、65歳から74歳までの高齢者の位置づけを変更し、労働力とみなす政策に転換するのか。日本の大きな分岐点を迎えることとなる。

一方で、家族構成の変化もきわめて重要な問題である。
2020年の国勢調査では、日本の世帯数は、1960年には約2220万世帯だったのが、2020年には約5570万世帯と、倍以上に増えている。この背景には、2008年まで日本の人口が増加し続けたことや、核家族と一人暮らしが増加したことが反映されている。

また、核家族以上に伸びが大きいのが単独世帯(ひとり暮らし)の数であり、1960年には300万世帯しかなかった単独世帯は、2020年には約2115万世帯、全体の38%を占めるまで増加している。逆に減少しているのが核家族以外の親族世帯であり、この形の世帯の代表例はおじいちゃん、おばあちゃん、その子ども夫婦、孫が同居しているような3世代家族のことを言い、代表的には「サザエさん」一家や「ちびまる子ちゃん」世帯の事で、日本の家族観のイメージを一貫して主張し続け、これが日本の家族そのものであるという印象を植えつけている。

しかし、現実は、核家族以外の親族世帯の割合は2020年には約7%にまで減少しており、決して日本の家族を代表する家族構成ではなく、ほとんどの世帯は、ひとり暮らしの40%弱をトップに孤独、孤立を強めるという家族構成に変化してきているのである。

にもかかわらずである。保険や社会制度、日本の生活全般においてのシステムそのものが、「サザエさん」一家が象徴する3世代家族が同居しているという家族構成で制度化されており、それが限界になってきているというのに制度や社会保障を抜本的に改革するという議論の高まりがそれほどでもないというお粗末な現状だ。岸田政権の言う“新しい資本主義”こそ、この家族構成の大転換という時代をどう生き抜くのかというビジョンが求められているのである。

被差別部落にこそ、こうした社会的課題や社会矛盾が部落に真っ先に現れるという歴史的教訓から見て、それこそひとり暮らし高齢者の出現率や3世代同居型のいわゆる「サザエさん」一家型の極端な減少という部落の現実を見たとき、ひきこもりや孤立といった課題を「家族が引き受け続けること」という“身内の責任”論というわたしたちの持っている家族の幻想から脱却し、自己責任や身内の責任という考え方から脱し、社会の責任として引き受けるという地域の覚悟が求められているように思う。

部落解放運動第四期として提唱している地域共生社会への挑戦という課題は、2040問題や2054問題という年月より、2年や3年は部落に早期にやって来るという覚悟を持ち、受けて立つという気概が必要だ。世帯ごとの家族という概念を捨て、地域をひとつの家族と捉えたら、従来の家族機能を社会化や地域化させ、赤の他人の登場による新たな結びつきをつくりあげるシステムを地域で包摂させるという部落解放運動の登場だ。隣保館やつばめ会を中心とする地域共生社会づくりの本格的な展開を2040・2054という歳月を待たずして、いざ勝負の時である。