Vol.252 「裏アカ」で繰り返される誹謗中傷 採用時の身元調査に発展

「裏アカ」とか、「裏垢」といった言葉をご存じだろうか。SNSを使っていると、耳にすることもあるかもしれない「裏アカ」。「うらあか」と読むそうだ。

「裏アカ」とは、文字通り裏アカウントの事で、メインで使用しているアカウントとは別に作成した「表に出していない秘密のアカウント」の事を指し、「裏アカ」はインターネット上のいわば俗語にあたる。具体的には「鍵垢」と呼ばれる鍵のかかった「非公開アカウント」と、「公開はしているが、そのアカウントの存在を広く知らせていない」という2種類あるらしい。

個人がメインで使用しているアカウントとは別にアカウントを持つことであり、健全に利用しているなら、「サブアカウント」や「ハンドルネーム」と言う方が適しているだろうが、「裏アカ」との表現から見てとれるのは、当然、それを利用して自分本来のアカウントでは言えないような事(オープンにできない話題等について書き込む)の匿名性を活かして、誹謗中傷をしたり、攻撃的に書き込むために使用するというケースが多い。

“裏アカウント”−いわゆる“裏アカ”と称し、自分とは違うもうひとつの人格をつくりあげ、日頃の心の内に抱えている、不満や怒りなど外部に対するネガティブな感情を発散し解消させる方法として、鬱憤晴らし一貫として、まったく別の自分になりすまし、悪口や根拠のないウソといった誹謗中傷をネット上で繰り返す行為が最近問題視されている。

最近では、ひとと面と向かってのリアルな会話がトンと減り、メールやLINEといった SNSを使った方法でのやりとりが急増してきているらしい。スマホ携帯の画面を見る割合が、大人で1日に4時間以上、10代の若者であれば5、6時間をスマホに時間を費やしているらしく、そのことで精神的不調を訴える人が増えており、スウェーデンでは、大人の9人に1人が抗うつ剤を服用し、不眠症で受診する若者が2000年に比べて8倍も増えているとのことである。

日本に目を移しても電車内では同様に皆うつむき加減で、スマホを操作している。中毒性さえも指摘されており、10分に一度はスマホを開いて何か新しい情報が届いていないか確かめなければ気が済まないといったケースも報告されている。
 
その結果、スマホの中で、自分が廻りからどんなふうに評価されているのか。どう見られているのかといったことが気になり、「裏アカ」を使って、友だちのアカウントを監視していると言ったケースが目立つらしい。

「他人になりすましてインスタの裏垢をつくり今までいじめてきた人たちのアカウントを監視しています。やめようとは思っているのですが会話のやりとりを見れるようになった好奇心からやめられません。裏アカの持ち主が自分だとバレるのも怖いです。どうしたらいいですか?」といった相談が寄せられているとのことだ。

こうした現実が、企業の新規学卒者の採用という場面で、「裏アカ」を調査する企業が増えてきているという情報が一部マスコミ関係者やわたしたちの所にも届いている。

つまりは、新規学卒者がこの“裏アカ”を使って、誹謗中傷や攻撃的な書き込みなどを行っていないかを企業が興信所や探偵社を使って調査するという−いうならば“ネット上の身元調査”が行われているというのだ。さらには、裏アカ当事者の存在がわかれば、当該の住所地まで出向き身元調査が行われているという情報まで飛び交っている。採用にともなう身元調査は、1975年の部落地名総鑑事件以降、1998年のアイビー・リック社による差別身元調査事件など、履歴書を用いた現地確認による身元調査が横行した。つまりは、ペーパー(紙)による差別身元調査だ。それが、2023年にはネット空間よる裏アカ調査を介して、当事者の住所地まで調査するという身元調査にまで発展してきている。

SNS時代のスマホ依存に侵された人物が、もうひとりの自分(裏アカ)をつくりあげ、誹謗中傷を繰り返すという負の側面を企業側が本格的に調査し、本人を特定していくという身元調査が行われているというのだ。たしかに裏アカを使っての誹謗中傷はしてはいけない行為であり、本人への猛省を促すことは言うまでもない事だ。しかし、そのひとを調査し、あぶり出し、うちの企業には採用しないと身元調査を繰り返す企業の差別体質は許すことの出来ない違法性ある行為である。
 
「企業は社会の公器である」のではあれば、スマホ依存で病んでしまった若者たちに対して、社会の期待に応えられるよう有益な指導でもって、悔い改めさせ再生させることも企業の社会的責任ではないだろうか。本格的な事実解明が急がれる“裏アカ”問題という事象である。