2016年3月、鳥取ループとの長き裁判闘争のスタートを切った。 8年以
コラム | 2024年11月27日
コラム | 2024年11月27日
2016年3月、鳥取ループとの長き裁判闘争のスタートを切った。
8年以上が経過することとなった。2021年東京地裁による判決は、部落の地名公表はプライバシー侵害であることを認め出版、ネットでの掲載の差し止め、損害賠償請求を認めるという判決となった。
そして2023年6月東京高裁において、画期的な「差別されない権利」を認めた判決へと繋がっていったのである。
部落解放同盟として、ネット上でのこうした悪質な差別確信犯的な相手との闘いにおいて、裁判という手法が必ずしもベストな闘いの方向であったのかは、当時を振り返っても裁判闘争に踏み込むという方法論を巡って若干の議論はあったし、むしろ国会での審議を呼び起こし、世論喚起するという方向がベターではないかといった意見も散見されていたことは事実である。しかも裁判は長期戦を余儀なくされ、費用も生ずる。部落差別への怒りを継続させることへの不安感や長期化する闘争への忍耐力などを考えて躊躇する声も少なからずあったことも事実だ。しかし、人権に関する救済法という法律がない以上、泣き寝入りしないためにも裁判に打って出るという判断をし、8年以上の裁判闘争が現在も継続されている。
総務省からこの11月に「情報流通プラットフォーム対処法(以下、情プラ法という)」を受けて省令及びガイドラインに関する考え方と題する案が示された。
その案では、「特定電気通信によって情報を流通させ、又は、広告する行為が他人の権利を侵害する場合を対象とすることとし、対象となる権利・利益を例示列挙する」との考え方を示し、大規模プラットフォーマーへの適切な対処を求めるという内容となっている。つまり、削除するに該当する項目を総務省が列挙したというものである。
その項目に「私生活の平穏」という項目を定め、そこには、「社会通念上受忍すべき限度を超えた精神的苦痛が生じた場合には、私生活の平穏などの人格的利益の侵害が成立する」として、去年6月の高裁判決をそのまま引用するという項目立てでガイドラインとして提案されている。総務省としては、被差別部落という地域の識別情報の摘示によって、不当な差別を受け、人間としての尊厳が傷つけられ、平穏な生活を送ることができない不安感は、同時に人格的な利益をも侵害される行為であることから、削除の対象として盛り込むようプラットフォーマーに義務づけるという判断である。
しかもこうしたガイドラインを「法令上の義務がある場合」を例示するとしてさまざまな行為を項目立てしており、わざわざその項目に−(努力義務を除く)と書き込んでいることから、あくまで義務であることを強調するという内容となっている。
「情プラ法」という法律が制定され、その法に基づく政省令がまとめられようとしており、そこに裁判で記された“差別されない権利”という判決内容がガイドラインとして適用されたことは裁判闘争を継続し、闘い抜いてきたわが同盟の大いなる成果であることを声を大にして強調したい。裁判例として積み重ねてきた司法での闘いが、立法を少しばかり動かしたことに、これからの大きな展望を見いだしたいと思っている。
ガイドライン案で示された“私生活の平穏”という項目が、プラットフォーマーに義務づけらようとしているとはいえ、どのような内容になっていくのか、わが方も働きかけを強めなければならない課題でもある。しかも私生活の平穏を脅かす出来事は、ネット上においては、同和地区の識別情報の摘示だけではない。ネット上に吹き荒れる誹謗中傷や人権侵害行為、差別発言など私人間による有害情報は悪質化し、陰湿化し、拡大の方向にある。
それを「私生活の平穏」という項目ですべてを網羅できるのかどうか、疑問の残るところである。しかも大規模プラットフォーマーは、ほとんどが外資系という性格上、平穏な生活が侵害される差別行為が、同和地区の識別的な情報だけが、ネットから削除されても効果は薄い。マイノリティに対する侮辱の意思が表れているような書き込み等が、削除対象となっていくのかどうか。パブリックコメントなどにおいて、わが方の考え方を示さなければならない。
あらゆる差別と人権侵害行為が、ネット上から削除されるようさらなる闘いが求められることは言うまでもない。