Vol.294 急いては事を仕損じる  「タイパ」重視の風潮

「タイパ」もしくは、「タイムパフォーマンス」という言葉をご存じだろうか。
タイパとは、費やした時間に対する満足度の度合いを示す言葉らしい。
日本語では「時間対効果」と訳されるそうで、短い時間で最高のパフォーマンスを発揮させようというZ世代ならではの言葉なのかもしれない。

そういえば、うちの娘たちもサブスクと言われるネットフリックスやプライムビデオを自分のスマートフォンで視聴してるが、1.25倍速という超〜早い“ビデオ鑑賞”である。これも“タイパ”ということであろうか。

東京新聞に「あわてない。あわてない」とのタイトルで社説が紹介されていた。
「民主主義の意思決定は複雑で時間がかかるが、人間というものは生来、せっかちにできていて……何事であれ急ぎがち。でなければ〈急いては事を仕損じる〉のような諺(ことわざ)からTVアニメの一休さんの口癖『あわてない、あわてない』まで、性急を戒める言葉が世にこれほど多いはずもない」と紹介されていた。

「急いては事を仕損じる(せいてはことをしそんじる)」とは、何事もあせると失敗しやすいもので、急ぐときほど落ち着いて冷静に行動するべきであるという諺である。その真逆であり、正反対が“タイパ”という価値観であり、映画を早送りで見て筋書きをおおよそ分かっていれば友だちとの会話に付いていけるというような話らしいが、そんな浅薄なことを続けていては、脳にとって一番大切な論理力も想像力も情緒力も直感力もどんどん衰退し摩耗してしまうとは言い過ぎだろうか。

この“タイパ”の最たるのがSNSだ。SNSを通じて「断片的で不正確な情報や主張の氾濫が社会や政治を乱すこと」への懸念と、それに対して「次世代への責任を意識した熟議を各分野で進めること」の不可欠性を強調する評論家も多い。

エセ情報やフェイクニュースといった間違った情報が氾濫しているSNS社会においては、それこそ「あわてない。あわてない」が肝心要の重要なキーワードであるようだ。

タイパを重視する理由として、「自分が価値を感じるコトに、時間を割きたいから」が49.3%ともっとも多く、ついで「世の中のあらゆるコトを効率化したい」という回答が30.8%と紹介されている。タイパがさらに進行すれば、費やした時間に対する満足度の見返りとして、大きな代償を支払うことになりかねないというスマホ・SNS依存問題がそこには横たわっていると言われている。
 
「スマホが手元にないと落ち着かない」「一日中スマホに関することを考え、どうしても触ってしまう」「メールやSNSを必要以上にチェックする(すぐに返信しないといけないと考えてしまう)」「何気なくネットサーフィンや動画視聴をしていたら、気付くとかなりの時間が経ってしまっている」「気付いた時にはおこづかい以上に課金していた」などが挙げられ、そのひとつでも当てはまる症状があれば、スマホ依存症と言われ、速やかに診断を受け、治療が必要との病だと説明されている。

「効率化」「即効性」という短い時間に最大の成果を上げようとの急ぐ気持ちもわからなくはないが、エセ情報やフェイクニュースといった情報に誰よりも先にとびつき、その情報を友だちに自慢げに「我先に」と伝え、その情報がいい加減で信憑性のない、それこそ“フェイク”だと知ったときには、気まずい友人関係に発展していく可能性さえ考えられる。

7月に参議院選挙が行われるが、断片的で不正確な情報や一方的な決めつけによる主張が氾濫する可能性が高い国政選挙に突入することが予想されている。投票日が過ぎてからあの情報は、エセ情報であったり、フェイクニュースであったりと事実でないことで、当落が決まってしまうと言うことがあってはならない。

やはり人間は「熟考」しなければならない。その上で、それで得られた自分なりの考えを他人との対話や議論に持ち込んで大いに討論し、他人の意見を出来るだけ取り入れて自分の意見をより良きものに仕上げていく「熟議」に慣れ親しむような「討論」の仕組みをつくりあげなければならない。そのことを今年は心掛けたいと思う。あらためて“あわてない。あわてない”。