フードバンクで「食」のライフラインを

水平時評 府連書記長 赤井隆史

「日本のフードバンク活動の多様性」というテーマのシンポジウムが東京で開催された。部落解放運動オンリーの私が、他のNPOが主催する会議に出席することは珍しいが、新たな息吹を部落解放運動に取り入れるという発想から大事な会議と認識して参加した。

シンポジウムのコンセプトは、「なにも決めない」というところにあると理解した。8名〜10名が持ち時間20分で自らの活動紹介と課題を一気にプレゼン形式で報告する。報告される方全員がパソコンを駆使し、パワーポイントを有効に使ってのシンポであり、私たちがひらく集会では考えられないほど、「これでもか、これでもか」と詰め込まれた長時間の集会であった。感想をひと言でいえば「じぇじぇじぇ」に尽きる。

「なにも決めない」は、それこそ多様という意味である。社会福祉協議会の活動を通じてフードバンクという取り組みを知り、それこそ生活困窮者の支援に結びつけているところ、福祉施設や団体への“食”の提供ではなく、個人への支援のみに徹している市民団体、逆に一切の行政的な支援を受けることなく、福祉施設や団体に“食”を提供しているNPOもあったりして、「フードバンク」という名称は同じでも活動の中身そのものは実に多様であり、様々であることが伺えた。

その中でも共通したテーマは、生活困窮者が増え続けているという現実に、手をこまねいていてはいけないということだ。

「とにかく明日食べるものがない」「昨日、リストラで首(解雇)となり、明日からどうして生活して良いかわからない」といった切実な問題に、「とにかく3日間の食料を」提供しようというのが、フードバンク活動だ。そのあいだをつないでいるのが、各地の社会福祉協議会であったり、地域生活包括支援センターであったりする。

フードバンク活動の今後のキーワードが、「食から生活全般の支援に」という視点に移りつつあるとわたしは理解した。地域と行政、民間という力をどうネットワークさせて、「まずはおなかをいっぱいにしてから、仕事のこと、住むところ、生活全般をどうするかを考えよう」という、それこそ“たったひとりに現れた生活困窮という現実”に対して、みんなで包括的に応援、支援を繰り広げていこうという志。

「フードライフライン」と「フードセーフティーネット」という考え方での構築をめざそうというものだ。電気・ガス・水道などのインフラのライフラインと同様に、食べるという行為そのものが、フードライフラインであり、日本にも毎日の食事に困ったら無料で取りに行ける場所や、緊急時にすぐに食料を確保できる仕組み(フードセーフティネット)の構築をスタートさせようという提案でもあった。

“いのち”を縦軸、横軸に“食(食べる)”を据える。そうすると“持続可能な社会”を維持し続けるためには、決して政府だけで完結するというものではなく、企業や消費者、投資家、労働者、NPOなど、社会のさまざまなな立場にある組織や個人が、参加できるような仕組みが必要であり、それ全体がステークホルダー(利害当事者)として、社会的に排除された人たちの生きなおしを支援し、社会に再チャレンジできるよう包括的に応援しようという市民活動である。

多種多様なステークホルダーが対等な立場で参加し、協働して課題解決にあたる合意形成の枠組みを、“マルチステークホルダー”と呼ぶ。持続可能な発展を支える新しいモデルが、「フードバンク」というひとつの市民活動から大きく飛躍し、発展を遂げつつある成長の過程を体験したシンポであった。