戸籍不正取得事件

個人情報の裏ネットワーク

行政書士らが請求書偽造して不正に取得

行政書士などの有資格者が職務上の権限を悪用して戸籍や住民票を不正に取得する事件はこれまでもたびたび起こってきた。しかし、2011年11月に発覚したいわゆる「プライム事件」では、身元調査の裏ネットワークともいえる個人情報の売買ルートの存在が次々と明らかになっており、個人情報をめぐる不正は底なしの様相を見せている。

司法書士や元弁護士など5人が逮捕

職務上請求書を偽造して戸籍や住民票を不正に取得したとして逮捕されたのは東京都千代田区の司法書士事務所「プライム総合法務事務所」の社長と同社員の司法書士と元弁護士、横浜の探偵社社長、京都のグラフィックデザイナーの5人。これまでに全国で1万件以上にのぼる不正取得が明らかとなっている。

8、9割は結婚・浮気の調査

プライム社の社長は「依頼の8割から9割は結婚相手と浮気の調査」、横浜の探偵社社長は「半分は結婚相手の身元調査以来」と証言しており、いまだに結婚時の身元調査のニーズが不正なビジネスを成り立たせていることを物語っている。
プライム事件は▽依頼者から興信所・探偵者への調査の依頼▽興信所・探偵社は「情報屋」と呼ばれる仲介役に取り次ぐ▽情報屋は「元締め役」の横浜の探偵社に依頼▽そこからプライム社に依頼があり、所属の司法書士の名前で偽造した職務上請求書をつかって役所の窓口から戸籍は住民票を取得▽逆のルートをたどって最初の依頼者に報告▽その際、関与を隠すためにグラフィックデザイナーが画像処理をしていた、という構図のなかで起こっていた。

職務上請求書を偽造し

現在では司法書士会など8つの「士業」も厳しい規制がかけられており、かつてのように職務上請求書を簡単に横流しはできない。そこでプライム社では職務上請求書そのものを偽造することで大量の不正取得を行っていた。
この事件は名古屋地裁で裁判が行われ、プライム社社長は懲役3年、探偵社社長は懲役2年6ヶ月の実刑。元弁護士に懲役2年(執行猶予4年)、グラフィックデザイナーに懲役1年6ヶ月(執行猶予3年)、司法書士に罰金250万円が言い渡された。

ハローワーク、携帯電話会社、警察からも情報が流出

その後、事件はさらに広がりを見せる。「プライム事件」に関連して、様々な職種の人たちが逮捕されはじめたのである。
6月にはハローワーク横浜の職員と神奈川県内の調査会社代表、7月には携帯電話会社の店長と広島県の興信所経営者、はてには長野県警の現役巡査2人、元警部1人の3人が逮捕された。
偽造された職務上請求書によって、戸籍や住民票が不正に取られ、ハローワークからは職歴情報、電話会社からは携帯電話の情報、警察からは車両の情報が不正に流され、いずれもわかっているだけで数千件の情報が売買され、不正を働いたものは巨額の利益をあげていたのである。

「部落地名総鑑事件」の延長線上に

こうした不正の背景には、いまだに身元調査へのニーズがある。各地の人権意識調査では「部落との結婚に反対」「できれば避けたい」など常に2、3割の人たちが部落を忌避する回答をしている。1975年の「部落地名総鑑事件」の発覚から、企業による公正採用選考の取り組みや身元調査お断り運動など様々な取り組みが展開されてきたが、結婚などに際して相手の身元を調べるという動機がこの社会に確実に存在しているのである。