検察庁のインク資料を検査 狭山弁護団 12月に鑑定書提出へ

狭山事件で第62回三者協議が11月12日にひらかれ、弁護団は年内に万年筆に関する新証拠を提出することを裁判所に伝えた。前回の三者協議(8月27日)での確認を受けて、弁護団はあらたに蛍光エックス線分析の専門家である科学者に鑑定を依頼。すでに検察庁にあるインク資料の元素を調べる検査がおこなわれ、現在、分析と鑑定書の作成が進められている。狭山事件は事実調べ(証人尋問)・再審開始に向けて最大の山場を迎えている。東京高裁・家令和典裁判長がインク鑑定を含めた鑑定人尋問をおこなうよう一層世論を高めていこう。

今から50年前の1974年10月31日、東京高裁の寺尾正二裁判長は一審の「死刑判決」を破棄し、石川一雄さんに「無期懲役」を言い渡した。その大きな根拠となったのが、「被告人のいうとおり、自宅勝手場出入口の鴨居の上から被害者の所持品である万年筆が発見され」たことであり、今もこの確定判決が維持されている。

被害者のインクにはクロム元素は含まれていない

狭山第3次再審では門野博裁判長の勧告により証拠開示が進み、万年筆に関してさまざまな重要証拠が開示されてきた。2013年には被害者が使っていた万年筆のインク瓶がはじめて開示され、被害者がパイロット社の「ジェットブルー」というインクを使っており、そのインクにクロム元素が含まれていることがわかった。 2016年には、発見万年筆を用いて被害者の家族が検察官の前で書いた「数字」の紙片が開示された。1976年の上告審段階では、被害者が事件当日に学校で書いた「ペン習字」 が開示されている。

石川さん宅から発見された万年筆が被害者のものであれば、①被害者が使っていたジェットブルーのインク、②被害者が事件当日にペン習字で書いた文字のインク、③被害者家族が発見万年筆で書いた「数字」のインクはすべて同じインクであるはずだ。

弁護団は、非破壊分析の専門家である教授に依頼し、証拠開示されたインク資料を蛍光エックス線分析によって調べた。①のインク瓶と②のペン習字の文字からはクロム元素が検出されたが、③の発見万年筆で書かれた文字からはクロム元素は検出されなかった。弁護団は2018年8月に発見万年筆のインクは被害者の使っていたインクと違う(元素が異なる)という鑑定を提出している。

今回、8月におこなわれた三者協議での確認を受けて、弁護団は、あらたに蛍光エックス線分析の専門家である大学の名誉教授に検査を依頼。検察庁にあるインク資料を使って、蛍光エックス線分析装置での検査がおこなわれ、現在、検査結果の分析、鑑定書の作成が進められている。年内には、新証拠として鑑定書を裁判所に提出する予定となっている。

弁護団は、鑑定書提出とともに、あらたに検査をおこなった鑑定人の証人尋問を求めることにしている。今後は、このインク鑑定も含めて、弁護団が求める鑑定人の証人尋問の実施が焦点となる。証人尋問の実施・再審開始にむけて狭山事件はこの年末から年始にかけて最大の山場を迎えることになる。

次回の三者協議は2025年1月中旬におこなわれる。袴田事件の再審無罪判決、福井事件の再審開始決定と、えん罪や再審に対する市民の関心は高まっている。事実調べ(証人尋問)を求める署名をさらに拡大し、東京高裁第4刑事部に届けよう。石川さんの再審無罪を一日も早く実現するために再審法改正に向けたとりくみを進めよう。